森会長の発言問題から見えるオリンピック委員会の組織構造のヤバさ
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会(以下「オリンピック委員会」)の会長である森喜朗氏ですが、
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」
というような女性蔑視的な発言をしたことにより、連日のように国内外から批判の声があがっています。
まあ、海外の目に触れてしまったということで今回大騒ぎしていますが、森会長の失言は今回だけの話じゃないんですけどね。
今回は森会長の発言問題に多少触れつつ、森会長がいないと成り立たなくてなってしまっているオリンピック委員会の組織構造のヤバさについて述べていきます。
そもそも森会長の失言は昔から
森会長の公の場での失言や女性差別は、いまにはじまったことではありません。
2003年の鹿児島市内の公開討論会においては、少子化について、
「子どもを一人もつくらない女性が、好き勝手とは言っちゃいかんけど、まさに自由を謳歌して楽しんで、年取って税金で面倒見なさいちゅうのは、本当はおかしい」(毎日新聞)
という、今回の比じゃないぐらいヤバイ発言をしています。
男尊女卑が当たり前の時代に生きてきた人ですから、いまさら考え方を変えるのは難しいとは思います。
本人としては、悪気があっていってるわけではないのでしょう。
そもそもこの手の発言を「悪いこと」とは思っていないので。
今回の件についても、「ちょっといいまちがえただけ」ではなく、思想として染みついてしまっているのでどうにもなりません。
本人もどこが悪いのか、根本的な部分で理解していないと思います。
まあ、他人の考えを変えるのは困難なので、ぶっちゃけどうにもなりません。
それで「森会長は辞任するべきだ」という意見が国民から出る一方で、
「余人をもって代えがたい」という意見がオリンピック委員会のほうから出てきています。
実際にそのとおりだったりするのが、このオリンピック委員会という組織のヤバさです。
「余人をもって代えがたい人材」は組織を蝕む
ワンマン体制で頑張ってきた森会長
自民党の世耕弘成参院幹事長は、以下のような発言をしました。
「余人をもって代えがたいところがあると思いますよ。IOCとの人脈、これまでのオリンピックに関する知見、その他を考えたらこの直前のタイミングで、森さん以外に誰かこのオリンピック開催を推進できる方がいらっしゃるでしょうか」
実際に森会長は、よく働く人なのでしょう。
森会長のコネを使って、いろいろな組織との連絡を取り合うことで仕事が回ってるというのもあるかと思います。
ただ組織としては、「余人をもって代えがたい人材」というのは、できるかぎり無くしたほうがいいのです。
「余人をもって代えがたい人材」というのは、「その人材がいないとまわらない状態になる」ということです。
たとえばその人材が失踪したり死亡したりといった状態になったとたん、組織はそれでまわらなくなります。
チェスでキングを取られて、それでゲーム終了という状態ですね。
そうならないためにも、トップがいなくても動ける組織体制をつくっておかなくてはなりません。
それに森会長は80歳を過ぎています。
その高齢者におんぶにだっこの状態の組織って、そうとうヤバいと思います。
独裁を生む「余人をもって代えがたい人材」
「優秀な人材」がいることは、組織にとってはいいことです。
多ければ多いほどいいでしょう。
しかし「余人をもって代えがたい人材」がいること、つまり「代えがきかない人材」がいるのは、かなりまずい状態です。
組織としては、「この人材を外してはならない」ということから、不正をしようがなにをしようが、逆らったり辞任させたりすることができません。
だって外してしまったら組織がまわらなくなるのですから。
組織を潰すわけにはいきませんから、外せなくなりますよね。
独裁自体は悪いことではありません。
シンガポールなど独裁国家ですが、うまくやっています。
ただこれがうまくまわるのは「トップが相当優秀」という大前提が必要になります。
トップ次第で浮き沈みが激しくなるのが、独裁の欠点ともいえます。
だから「余人をもって代えがたい人材」を有しない民主主義国家のほうが、長期的には強固です。
「余人をもって代えがたい人材」が存在してしまうことは、もはや「組織はその人物を止めることができない」といっているのとおなじです。
ぶっちゃけ組織としてはかなりもろい状態になっています。
森会長の必要性
世耕参院幹事長の発言にあった「IOCとの人脈」ですが、森会長が出れば話がまとまりやすいみたいなのがあるようです。
しかし「IOC」はオリンピックをするための委員会なのですから、誰が対応しようと話をまとめるべきであって、人によってまとまったりまとまらなかったりなどということがそもそもあってはならないのです。
2021年2月7日の日刊スポーツの取材に応じた舛添要一氏が、以下のような発言をしています。
がんで体調が悪いのに、バッハ会長との会食だけのためにロンドンまで飛んだ。そういうこともバッハ会長からも認められている部分。
一見いい話のように聞こえますが、
いつの時代の話だよ
といいたいです。
民間企業が契約を取るためにやるのならわかるのですが、オリンピックがらみなのですから仕事時間に必要なことだけ淡々とやればじゅうぶんでしょう。
もうこういう仕事の仕方をやめてほしいです。
森会長は無報酬で働いてる?
報酬というのは、給料として直接もらうものだけではありません。
東京オリンピックで潤うのは建設業です。
森会長はゼネコンのドンです。
そして東京オリンピックの予算は、コロナ以前から膨らみ続けています。
コロナ後には予算はさらに膨らみ、オリンピック史上最大の1兆6440億円(2020年12月時点)という金額になってしまっています。
最終的に「無理だった」で終わりそうな気はしますが、ギリギリまで金をひっぱるということをやり続けたほうが、オリンピックで利益を得ている人たちにはおいしいです。
潤う国民もいますから、そのあたりは自分がどの立場かで意見が変わってしまうでしょう。
まあ、大半の国民には税金を無駄にされるだけなのは変わらないとは思います。
そもそもコロナが無かったとして、オリンピックをやっても、大半の国民は税金を取られるだけで儲かりませんしね。
まとめ
多数の「優秀な人材」ではなく、森会長という「余人をもって代えがたい人材」を存在させてしまったオリンピック委員会。
森会長が動いてくれればガンガン仕事はまわります。
が、その反面、森会長を抜かすとなにもできなくなるおそれがあり、だれも森会長に口出しできなくなるという独裁状態を生み出してしまっています。
これはオリンピック委員会にかぎらず、組織に「余人をもって代えがたい人材」が存在してしまうと、かならずといっていいほど発生する問題です。
国家プロジェクトなのに、組織は中小企業っぽいんですよね。
ある意味、日本的といえば日本的ですが。
そういうわけで、オリンピック委員会が森会長を辞任させることは無理でしょう。
「余人をもって代えがたい人材」ですから。