中国「反外国制裁法」をわかりやすく解説ー外国人が「報復リスト」に登録される危険性と現実的な対策について
今年(2021年)6月10日に、中国でとうとう「反外国制裁法」が制定されました。
まあ、噛みくだくとだいたいそんな感じの内容です。
中国に住んでいる外国人にとって、今回この制裁法の問題となるのは、やはり個人にまで制裁の範囲がおよんでしまうことでしょう。
つまり、本人はなにもしてなくても、所属している会社や団体、親族が中国に反する方針を打ちだしたときに、連座的に罰せられてしまう危険性があります。
皆殺しにまではなりませんが(たぶん)、会社が反中国的ななにかをやらかして、あなたが、
「えっ、そんなの聞いてないよ」
というばあいでも「報復リスト」入りして、罪に問われることがあります。
いまの時代に、一般の外国人に対してそこまでしないとは思いますが(たぶん)、行動(職場への申告なしの中国国内旅行など)や中国国内でのメールやチャット、通信の内容には、これまで以上に注意したほうがいいでしょう。
とくに「職場への申告なしの中国国内旅行」については、筆者の知り合いの日本人が公安から呼び出しをくらっています。
この方は旅行が好きで、中国国内を旅してまわっていましたが、職場にそのことを伝えていませんでした。
しかし中国のばあい、列車での移動はすべて記録されますので、
「外国人にしては短期間での移動が多すぎる(しかも申告していない)」
ということで調べられました。
そのときは注意(「次はちゃんと申告しろ」)ですみました。
しかし法律的に外国人の行動を制限できるようになってきたので、申告が必要なものがあるばあいは、
「めんどくさいからいいや」
ですませないほうがいいかと思います。
ルールがあれば、ルール通りに動いてください。
日本国内ではないということを、これまで以上にしっかり意識したほうがいいでしょう。
今回は「反外国制裁法」の内容と、今後の現実的な対応方法について述べていきます。
反外国制裁法とは?
「反外国制裁法」とは、外国からなんらかの差別的な措置を受けたさいに、それに対して反撃するための法律です。
全人代(全国人民代表大会)が6月7日から開催されていましたが、最終日の10日にその実施が決定されました。
全人代のホームページに全文がありますので、中国語が読める方は一読しておいたほうがいいでしょう。
ざっくり説明すると、国家の主権や安全・発展などを保護するため、外国から不当な制裁を受けたばあい、中国はそれを実施した組織や団体・個人を「報復リスト」に追加するというものです。
この報復リストには組織や団体に所属する個人や親類も含まれます。
そのまま解釈すれば、そういうことになってしまいますね。
外国にいるばあいは入国禁止、中国にいるばあいは国外追放ですね。
ようは中国で働けなくなります。
それ以外にも、中国の企業や個人との取引禁止や、中国国内の財産凍結などもあります。
とにかく中国相手に商売をする方であれば、不利益をこうむることはまちがいありません。
で、ここからが問題なのですが、反中国の団体を支援したばあいも、この法律の処罰対象となります。
ここが不明瞭なのですが、たとえば反中国と認められた会社の製品を購入・宣伝するというばあいも含まれる可能性があります。
まあ、いつもどおり、向こうのさじ加減ですべて決まる感じです。
基本的にこの法律は、中国国内にいる外国の組織・個人すべてに適応されます。
そのため、中国国内にいるばあいは、変な発言や行動をしないほうがいいかと思います。
何度もいいますが、海外にいるということを強く認識しておいたほうがいいでしょう。
なぜ反外国制裁法が制定されたのか
一般的に日本では、
「トランプは反中国、バイデンは親中国」
みたいな認識があるかと思います。
トランプは反中国的な発言を多くしていましたが、じっさいのところ、中国にしてみたら、トランプはむしろ歓迎すべき大統領でした。
アメリカファーストの名のもとに、ヨーロッパとは協調せず、国内では人種差別的な発言をおこなうなど、
「アメリカはだめな国」
というのを中国人にこれでもかと植え付けてくれました。
とくにアジア系の人たちに対して暴力が振るわれる事件が多発するのは、中国政府にしてみるとおいしい状況です。
昔まではアメリカにあこがれを持ち、移民したいと考えていた中国の人たちも、いまでは、
「アメリカ怖い。行きたくない」
みたいになってきています。
中国ではこのようなトランプの功績(?)をたたえて、「川建国(中国の建国者トランプ)」とまでいわれていました。
中国にしてみると、アメリカ1国だけを相手しているのは怖くはありません。
トランプが勝手にヨーロッパと離れてくれるので、中国はその隙をついてドイツなどヨーロッパ諸国と仲良くなりました。
この状況が、バイデン政権になると変わります。
バイデンは世界との協調路線をとりました。
アメリカ一国で中国にあたるのではなく、ヨーロッパをはじめとする世界各国と手を組んで「中国包囲網」の形成をはじめます。
アメリカ一国だけならまだ対処しやすかったのですが、これまで仲が良かったヨーロッパ諸国も含め、世界を相手にするとなるとかなり面倒なことになります。
貿易に対してさまざまなペナルティが加えられると(とくにヨーロッパ方面)、中国としては痛手になります。
そこで、アメリカが反中国的な行動をとったとき、それに他国が追従しないようにするため、今回の「反外国制裁法」が制定されました。
つまるところ、アメリカに追従するばあい、それに関する団体・個人をすべて「報復リスト」に加えるー逆にいえば、
「アメリカに追従したらそれ相応の報復が待っている」
ということで、追随者を牽制するのが狙いです。
たとえばアメリカがウイグルの綿を買わないという制裁をおこなったばあい、これに追従した企業や個人すべてが「報復リスト」に加えられます。
これまでと違って法的根拠ができたので、中国で商売をしたい企業にとっては、軽々しくアメリカを支持できなくなりました。
ちなみにバイデンも本気で中国と対立したいわけではなく、国際協調によって牽制の意思を見せているといったところです。
直接衝突を避けながらも、たがいの立場をゆずらないといった状況ですね。
対処法とまとめ
中国在住の外国人は、前述したように、言動にはこれまで以上に注意したほうがいいでしょう。
とくにネットでのなにげない書き込みなども注意が必要です。
個人が直接捕まったりなどということは、めったなことをやらないかぎりは大丈夫だとは思いますが、
「昨日OKだったことが、今日はダメ」
というのは中国でよくあります。
中国の国内旅行なども、行っていい場所・悪い場所や、撮影していい場所・悪い場所もあるので、そのあたりも事前に調べておくのがいいかと。
また旅行前は、会社への申請が必要なばあいはかならずしておきましょう。大学教員のばあいは、かならず申請が必要になるかと思います。